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液浸標本を海外に郵送する方法
〜 IATA 特別規定 A180 〜

最終更新日 2022-11-23

高濃度エタノール液浸標本を海外へ郵送する方法を かなりの時間をかけて調べていたのですが、 正規の手続き(IATA特別規定A180)が存在するこを最近知りました。 以下その規定について調べたことをまとめます。 一度(インド宛EMS)でしか試していませんが 特におとがめはありませんでした。 ルールに従っているので問題無いと思いますが、 規定自体に詳しく示されていない部分があって、 例えばプラスチック袋の厚さや吸収剤の量など、 それらは各自の判断に任されています。 航空機事故が発生すると莫大な金銭的および人的被害が発生する可能性があるので 良く調べて行動しましょう。

私は小さな昆虫を扱っているため 送付内容は1.5mLのマイクロチューブを数本といった規模です。 以下で例として挙げた梱包材等はそのような規模では十分かも知れませんが、 量が多い場合には不十分かも知れませんのでご注意ください。

この記事を見て行動した結果重大な事故が発生したとしても、 私はいかなる責任も負いかねます。 すべて自己責任でお願いします。

この記事に関する疑問点や間違い等がありましたら お知らせいただけると幸いです。


目次

国際郵便で送れるものとは?

国際郵便では以下のいずれかで禁止されているものは送れません。 この条件は航空便だけでなく船便の場合でも同じです。

この規定は品目ごとに定められており、 液浸標本はレアすぎるため各国毎の禁止物にはたぶん含まれていません。

https://www.post.japanpost.jp/int/use/restriction/index.html

したがってその物品が送れるかどうかは IATAが定める航空危険物かどうかによって決まることになります。 IATAの規定では原則として24容量パーセントを超えるアルコールを 航空危険物としています。 ただし液浸標本に関する特別規定(A180)の要件を満たせば、 航空危険物の適用を受けないとしています。

(調査中)なおプロピレングリコールは航空危険物に指定されていないので、 保存液がプロピレングリコールの場合は普通に送ることができそうですが、 現在調査中です。

IATA特別規定A180 2020年版 (原文)

オリジナルが見れれば良かったのですが、 IATAのサイトは現在有料になっているようです。

https://www.iata.org/en/publications/dgr/

なのでICAO(International Civil Aviation Organization)にあった情報を引用します。 改訂案を検討しているっぽく、ボールド体の部分を追加しようとしているみたいです。

https://www.icao.int/safety/DangerousGoods/WG20/DGPWG.20.WP.018.2.en.pdf

以下でUN xxxxは液体の種類で後述の保存液の種類を参照。

DANGEROUS GOODS PANEL (DGP) WORKING GROUP MEETING (DGP-WG/20) Montréal, 19 to 23 October 2020

A180 Non-infectious specimens, such as specimens of mammals, birds, amphibians, reptiles, fish, insects and other invertebrates containing small quantities of UN 1170, UN 1198, UN 1987 or UN 1219 are not subject to these Instructions provided the following packing and marking requirements are met:

  1. specimens are:
  1. wrapped in paper towel and/or cheesecloth moistened with alcohol or an alcohol solution or a formaldehyde solution and then placed in a plastic bag that is heat-sealed. Any free liquid in the bag must not exceed 30 mL; or

  2. placed in vials or other rigid containers with no more than 30 mL of alcohol or an alcohol solution or a formaldehyde solution;

  1. the prepared specimens are then placed in a plastic bag that is then heat-sealed;

  2. the bagged specimens are then placed inside a another plastic bag with absorbent material then heatsealed;

  3. the finished bag is then placed in a strong outer packaging with suitable cushioning material;

  4. the total quantity of flammable liquid per outer packaging must not exceed 1 L; and

  5. the completed package is marked “scientific research specimens, not restricted Special Provision A180 applies”.

The words “not restricted” and the special provision number A180 must be provided on the air waybill when an air waybill is issued.

IATA特別規定A180 (日本語訳)

以下の文献に日本語訳が載っているので引用します。 『感染性物質の輸送規則に関するガイダンス 2013-2014 版』 https://www.niid.go.jp/niid/images/biosafe/who/WHOguidance_transport13-14.pdf

これは訳本で以下がオリジナルと思います(2019年度版ですが)。 https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/325884/WHO-WHE-CPI-2019.20-eng.pdf

A180

感染性物質を含まない標本、例えば哺乳類動物、鳥類、両生動物、爬虫類、魚類、 昆虫および無脊椎動物の標本で、少量の UN 1170(エタノール)、UN 1198(引 火性ホルムアルデヒド溶液)、UN 1987(アルコール類)または、UN 1219(イ ソプロパノール)を含むものについては、以下の包装要件および表示要件が満た されるならば、危険物規則の適用を受けない:

  1. 標本を:
  1. アルコールまたはアルコール溶液で湿らせた、紙タオルおよび/ あるいは目の粗い薄地綿ガーゼ(チーズを包むクロス)に包んだ 後に、プラスチック袋に入れ、熱処理により密封した場合。袋の中 にある自由液体(浸み出してくる可能性のある液体)は 30 ml を 超えてはならない;または、

  2. 30 ml を超えないアルコールまたはアルコール溶液と共に、小瓶 あるいは他の頑丈な容器に入れた場合;

  1. 用意のできた標本は、次にプラスチック袋に入れ、熱処理により密封する;

  2. 袋に入れられた標本は、吸収材と一緒に更にもう 1 つのプラスチック袋に 入れて、熱処理により密封する;

  3. 完成した袋は、次に適切な緩衝材と共に丈夫な外装容器に入れる;

  4. 外装容器当たりの引火性液体の合計容量は、1 L を超えてはならない;また、

  5. 完成した容器には、「科学研究用標本、特別規定 A180 の適用により規制 対象外(“scientific research specimens, not restricted Special Provision A180 applies”)の文言を表示する。

航空貨物運送状が発行される限り、「規制対象外(“not restricted”)」の文言 および特別規定の番号 A180 を航空貨物運送状に記載しなければならない。

保存液の種類

規定にあるUN xxxxは国連が定めているコードで危険物の種類を表します。

http://www.unece.org/fileadmin/DAM/trans/danger/publi/adr/adr2015/ADR2015e_WEB.pdf

これ以外の危険物を含む場合は特別規定A180を適用することはできません。

ヒートシーラー

何がいいのかはわかりませんが 使ってみたものの情報を載せておきます。

テクノインパルス クリップシーラーZ-1

4,000円ぐらい。

http://www.technoimpulse.com/#/products/z-1

若干コツがあるようですが難しくはないです。 一応取説には書いてあるのですが。

  • 袋の種類に応じてダイアルでタイマー時間を調整したほうがいいかも
  • バーを軽く押さえる(押さえないと十分溶着しない)
  • ランプが消えてから1〜2秒おいてから外す(すぐだとまだ柔らかくて破けやすい)。

ダイソー イージーシーラー

ダイソーで売ってます。100円です。 NiMH使えます。

https://jp.daisonet.com/products/4550480064574

アルミ蒸着された袋の場合はそのままでもなんとかできましたが、 ポリエチレン単体の袋場合はうまくいきません。 以下のようにすると良いです。

  • クッキングシートを細長く切って2つ折りにする。
  • ポリエチレン袋をその間に挟み込みクリップで留める。
  • イージーシーラーを袋の手前の位置で挟み、余熱を10秒ぐらい行う。
  • ゆっくりスライドしていく。

プラスチック袋

熱シール可能なもので、 素材としてはLDPE(低密度ポリエチレン), LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン), CPP(無延伸ポリプロピレン), ナイロンポリ等が使えるようです。

小さい検体の場合はたぶんLDPE製の袋で良いと思います。 それほど高価なものではないので、 私は厚めのものを購入しました。

下はAmazonで購入した0.06 mm厚のものです。

下はダイソーで売ってた0.08mm厚のものです。 チャック付きですがチャックの部分をカットして使います。

大型の検体の場合はナイロンポリ袋(ナイロン+ポリエチレン)が 丈夫そうなので良いかも知れません。 水物包装や真空パックに使われています。

検体を保存液とともに小瓶に入れる

規定にある小瓶あるいは他の頑丈な容器ですが、 小昆虫の場合はスクリューキャップのマイクロチューブが使えると思います。 検体を保存液とともにマイクロチューブに入れます。 一つのチューブに入れる保存液の量は30mL以下としなければなりません。

アルコールをしみこませたガーゼとともに プラスチック袋に入れて熱シールする方法もあるらしです。

内袋に入れて熱シールする

チューブ(複数でもいい)をプラスチック袋に入れて熱シールします。 袋内の空気をある程度抜いた方が良いと思います (空気が残っているとパンクしやすくなりそう)。 写真ではカードが入っていますが、これは規定にはありません。

外袋に入れて熱シールする

内袋(複数でもいい)をプラスチック袋に 液体吸収剤を一緒にいれ熱シールします。 液体吸収剤は全部漏れても大丈夫なように十分な量を入れます。 ペーパータオルなどで良いと思います。 こちらも袋内の空気を抜いた方が良いと思います

吸収剤は写真のように片側だけに入れた方が良いかも知れません。 中が見えた方がいいかと思うので。

外箱に入れてシールする

外袋(複数でもいい?)を外箱に緩衝材とともに入れて、 ガムテープ等でシールします。 緩衝材は物理的な衝撃から守るためのもので、 プチプチなどを十分な量を入れます。 保存液の総量は 1L 以下であること。

小型包装物や国際eパケット等は100g単位で料金が設定されているので。 外箱の大きさについては小さい方が安くなりそうです。 ただし送り状を貼るスペースも必要なので、 最低でもA5が入る箱が必要と思われます(未確認)。 材質は液体の量が少なければ普通の段ボール箱で良いと思います。

外箱のマーキング

外箱に以下の文言を記入します。

scientific research specimens, not restricted Special Provision A180 applies

こちらの画像でよければご利用ください。

国際郵便の種類

注意: 2022年11月現在COVID-19の関係でかなり制限されているので、 どの方法法で送れるか最新情報を日本郵便のサイトでよく確認してください。

小形包装物、国際eパケット、国際eパケットライト、 EMS、国際小包などがあります。 また小形包装物と国際小包は、船便、SAL便、航空便とが選べます。 また小形包装物は書留オプション(追跡できるようになる)もつけられます。

日本郵便のサイトでどの方法で送るのが良いか比較できます。 この中で日数が表示されますが、 税関を通る日数が含まれていないのかプラス4~5日要するようです。 2kg以下の軽量物で追跡有りの場合のおすすめは国際eパケットです。

https://www.post.japanpost.jp/cgi-charge/index.php

送り状の作り方

国際郵便マイページサービスのラベル作成ツールを使いましょう。 手書きラベルはいくつかの相手国では扱ってくれません。 またツールを使うと入力もコピペできて楽だし間違いも起こりにくいと思います。

https://www.post.japanpost.jp/int/label.html

内容品名には“not restricted”と“A180”を必ず含める必要があります。 以下の記述で大丈夫だと思います。

Dead insect specimen (not restricted, as per special provision A180)

内容品種別は『贈物』とします。 単価は 1 JPY/円とします(0は入力できないので)。 個数はチューブ単位でいいのではないかと思います(たぶんそれほど重要ではない)。 用紙はA4で、印字はモノクロでもかまいません。

郵便局への持ち込み

梱包した箱と印字した送り状を持って郵便局に行き、 「インド宛EMSでお願いします」 などといってこの2つを渡します。 パウチ(ビニールポケット)に入れる作業は 郵便局の人がやってくれます。

以下の書類への記入を求められます。

上のサムネールは拡大できないので 詳細は以下のリンクの『国際郵便の申告書』を見てください。

https://www.post.japanpost.jp/int/download/index.html

この中の『航空危険物を理解し、航空危険物が含まれていないことを確認している。』欄も チェックして渡します(IATA特別規定A180により航空危険物の制限を受けない)。

郵便局で引受拒否されることはないと思いますが、 特別規定A180については簡潔に答えられるように 心の準備をしておいた方が良いかも知れません。

追跡

日本郵便の追跡サイトで調べることもできるのですが、 配達が完了しているのに反映されないことがあります。 相手国側の郵便局のサイトで検索するとちゃんと配達完了しているので、 日本郵便のシステムはなにかバグっているのかもしれません。

相手国の郵便局の追跡サイトはここで調べることができます。

https://www.post.japanpost.jp/int/ems/delivery/link.html

また『17track』を使うと相手国によらす追跡番号の入力だけで 自国と相手国の両方のサーバーからの情報を表示してくれるので 便利です。

https://www.17track.net/

その他参考にしたサイト

長文のものもありますが"A180"で文字列検索してください。

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